院長コラム第10号 更年期の心の不調―気分の波やイライラとどう向き合うか

院長コラム
この記事は約5分で読めます。

「このごろ、なんだか自分らしくない」と感じたら

以前なら気にならなかったことに、ついイライラしてしまう。はっきりした理由はないのに気分が沈み、涙もろくなった。夜中に何度も目が覚めて、朝から疲れている。40代半ばから50代にかけて、こうした変化に戸惑う方は少なくありません。

よくあるのは、「年齢のせいだから仕方がない」「家族に当たってしまう自分が情けない」と、一人で抱え込んでしまうことです。今回は、更年期に起こりやすい心の不調について、何が起きているのか、どこに相談すればよいのかをお話しします。

更年期は、体の中で大きな変化が起きる時期

日本産科婦人科学会によると、閉経の前後それぞれ5年、合わせて10年間を「更年期」と呼びます。日本人女性の閉経は50歳前後が平均ですが、個人差が大きく、40代前半から50代後半まで幅があります。

この時期には卵巣の働きがゆっくりと低下し、女性ホルモン(エストロゲン)が大きく揺れ動きながら減っていきます。これが主な原因となって、ほてり・のぼせ・発汗、めまいや動悸、肩こり、疲れやすさといった体の症状とともに、気分の落ち込み、意欲の低下、イライラ、情緒不安定、不眠といった心の症状が現れることがあります。

厚生労働省の資料では、更年期に現れる症状のうち他の病気によらないものを「更年期症状」、それによって日常生活に支障をきたす状態を「更年期障害」と整理しています。症状の出方や強さは、人によって大きく異なります。

ホルモンだけではない、心と暮らしの重なり

同学会は、ホルモンの変化に加えて、加齢による体の変化、心理的な要因、家庭や職場などの社会的な要因が複合的に関わると説明しています。

この年代は、仕事での責任が重くなる、子どもの進学や独立、親の介護が始まるなど、暮らしの変化が重なりやすい時期でもあります。体の変化で余力が少なくなっているところに負担が重なると、心のバランスを崩しやすくなります。気分の波は、性格や気の持ちようの問題ではありません。

イライラしてしまったあとに自分を責めるほど、気持ちはかえって疲れてしまいます。「いまは体が変化している時期で、気分の波が出やすい」と、家族や身近な人に伝えておくだけでも、お互いの受け止め方が変わることがあります。気分が大きく揺れた日のことを簡単に書き留めておくと、睡眠不足や疲れが重なった日と関係していると気づく場合もあります。こうした記録は、受診の際にも役立ちます。

なお、男性にも、男性ホルモンの低下によって似たような心身の不調が現れることがあると知られています。

「更年期だから」と決めつけないことも大切

一方で、この時期の不調がすべて更年期によるものとは限りません。厚生労働省の資料では、気分の落ち込みやイライラなどの心の症状は、うつ病や適応障害、不安障害、甲状腺の病気など、ほかの病気が原因の場合もあるため、医療機関での確認が勧められています。次のような場合は、それぞれの診療科への相談も考えてください。

  • 月経の乱れや不正出血がある ―― 婦人科
  • 体重の減少や強いだるさ、動悸や息切れが続く ―― 内科など(甲状腺の病気などの確認)
  • 気分の落ち込みが長く続く、急に気持ちが不安定になった ―― 精神科・心療内科

更年期の症状だと思って我慢しているうちに、うつ病など別の不調が進んでいることもあります。反対に、気分の不調だけに目が向いて、体の病気が見過ごされることもあります。どちらの可能性も視野に入れておくことが大切です。

婦人科では、少量の女性ホルモンを補う「ホルモン補充療法(HRT)」や、漢方薬などによる治療が行われています。ほてりや発汗が強い方、月経の変化が気になる方は、まず婦人科で相談されるとよいでしょう。婦人科と精神科・心療内科は、どちらか一方を選ぶものではなく、役割を分けながら一緒に支えていくものです。

当院の考え方――「病気」にしすぎず、眠りと暮らしから

更年期の心の不調は、すべてが精神の病気というわけではありません。当院では、つらさを必要以上に病名で呼ぶのではなく、いま心と体に何が起きているのかを一緒に整理することを大切にしています。

  1. 眠りを整える ―― 更年期は、寝つきの悪さや夜中の目覚めが増えやすい時期です。眠りが足りない日が続くと、イライラや落ち込みも強まりやすくなります。睡眠の記録をつけ、必要に応じて脳波で眠りを測る「インソムノグラフ」で、眠りの状態を確かめます。
  2. 生活のリズムと体を整える ―― 公的な資料でも、栄養バランスのよい食事、無理のない運動、規則正しい睡眠が大切だとされています。朝の光を浴びる、日中に少し体を動かすなど、続けられることから始めます。
  3. 抱えている負担を整理する ―― 仕事、家庭、介護など、いま背負っているものを言葉にし、減らせるもの、人に頼めるものを一緒に考えます。
  4. 婦人科と役割を分ける ―― ホルモンに関する治療や婦人科の病気の確認は婦人科で、気分の波や不眠、不安は当院で、と役割を分け、かかりつけの婦人科とも情報を共有しながら進めます【要確認】。

厚生労働省の資料でも、まずは生活習慣の改善や心理療法を行い、改善しない場合に薬物療法を検討するという流れが示されています。気分の落ち込みや不安が強い場合にはお薬が助けになることもありますが、その際も可能な限り最小限の処方を基本とし、量や期間をご本人と相談しながら決めていきます。

こんなときは、一度ご相談ください

  • イライラや気分の落ち込みで、家族や職場の人との関係がつらくなっている
  • 寝つけない、夜中に何度も目が覚める状態が続いている
  • 以前は楽しめていたことに、興味がわかなくなった
  • 婦人科で治療を受けているが、気分の不調が残っている
  • 「更年期だから仕方ない」と、長いあいだ我慢してきた

気分の落ち込みが強く、「消えてしまいたい」と感じるほどつらいときは、一人で抱え込まず、早めに医療機関や相談窓口にご相談ください。電話相談の窓口もあります。

  • こころの健康相談統一ダイヤル(厚生労働省):0570-064-556(電話をかけた地域の公的な相談窓口につながります)【要確認:受付時間】

おわりに

更年期は、誰にとっても体と暮らしが大きく変わる時期です。気分の波は、心と体が「少しペースを落として」と伝えているサインなのかもしれません。

「この程度で精神科や心療内科にかかってよいのか」とためらう必要はありません。婦人科と当院のどちらを先に受診すればよいか迷うときは、ほてりや月経の変化が目立つなら婦人科、気分の落ち込みや眠れなさが中心なら当院へ、というのが一つの目安です。眠りと暮らしを整えながら、この時期をできるだけおだやかに過ごせるよう、一緒に考えていきましょう。

当院は初診・再診とも完全予約制です。ご予約はお電話(054-200-2227、受付 9:00〜17:00)にて承っています。

※本コラムは一般的な情報提供を目的としています。症状については自己判断せず、医療機関にご相談ください。