「そろそろ戻らなければ」という焦り
休職して数週間が過ぎ、少しずつ眠れるようになってきた。気持ちも落ち着いてきた。そんな頃に、多くの方が新しい不安を抱えます。「いつまで休んでいいのだろう」「職場に迷惑をかけている」「戻ったら、また同じことになるのでは」。
休職中の焦りは、ごく自然なものです。ただ、焦りに押されて復職を急ぐと、短い期間で再び休むことになってしまう場合があります。今回は「働きながら治す ― 適応障害との向き合い方」の続編として、休職から職場に戻るまでの道のりを、精神科医と産業医の両方の立場からお話しします。
「良くなった」と「働ける」は、少し違う
休職中の回復は、おおまかに次のような段階をたどります。
- 休養の時期 ――何よりもまず休む時期です。眠ること、食べることを優先します。
- 回復の時期 ― 気力が少しずつ戻り、散歩や家事ができるようになる時期です。
- 復職を準備する時期 ― 仕事に近い活動を、決まった時間に続けられるかを試す時期です。
よくあるのは、家で過ごしているときの調子の良さから「もう大丈夫」と判断してしまうことです。家での「良くなった」と、毎朝決まった時刻に起きて通勤し、職場で人と関わりながら数時間集中する「働ける」とのあいだには、まだ少し距離があります。この距離を埋めていくのが、復職を準備する時期の役割です。
復職の目安は「生活リズム」に表れる
復職を考えるとき、私が特に大切にしているのは、その日の気分よりも生活リズムです。目安として、次のような点を一緒に確認します。
- 平日は出勤する時刻に合わせて起き、日中は横にならずに過ごせている
- 夜は大きく乱れずに眠れ、朝の目覚めがおおむね安定している
- 通勤と同じ時間帯に外出し、図書館などで読書や書き物を数時間続けられる
- 疲れても、一晩眠れば翌日に持ち越さない
- 仕事や職場のことを考えても、強い動悸や不安で手につかなくなることが少ない
こうした状態が、波はあっても安定して続いているかがポイントです。睡眠や一日の過ごし方を簡単に記録しておくと、ご自身の状態を客観的に振り返る助けになります。当院では、脳波で眠りの状態を測る「インソムノグラフ」も取り扱っており、睡眠のリズムを確かめながら準備を進めることができます。
主治医の「復職可能」と、産業医の「就業の判断」
復職の際、多くの職場では主治医の診断書(意見書)を求められ、そのうえで産業医との面談が行われます。厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」では、職場復帰支援の流れを次の5つのステップで示しています。
- 病気休業開始及び休業中のケア
- 主治医による職場復帰可能の判断
- 職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成
- 最終的な職場復帰の決定
- 職場復帰後のフォローアップ
主治医は、日々の診察を通じて、病状が回復しているかを判断します。一方で産業医は、その職場で求められる業務をこなせるか、どのような配慮があれば安全に働けるか、という視点で意見を述べます。手引きでも、主治医の判断と職場で必要とされる業務遂行能力などを産業医等が精査したうえで、対応を判断することが重要とされています。
私は嘱託産業医として、職場の側から復職の面談に関わることもあります。その経験から言えるのは、主治医の「復職可能」と、産業医の「もう少し準備しましょう」が食い違うことは珍しくなく、それはどちらかが間違っているわけではない、ということです。見ているものが少し違うのです。主治医の意見書に「短時間勤務から始める」「残業や出張は当面控える」といった就業上の配慮が具体的に書かれていると、職場も受け入れの準備がしやすくなります。
試し出勤とリワークという「助走」
会社によっては、正式な復職の前に「試し出勤」の制度を設けているところがあります。通勤だけを試す、短い時間だけ職場で過ごすなど、形はさまざまです。ただし、制度があるかどうか、その間の処遇や万一のけがの扱いなどは会社ごとに異なります。人事や産業保健の担当者に、あらかじめ確認しておきましょう。
また、生活リズムの立て直しや体力づくり、ストレスへの対処法を身につける場として「リワーク(職場復帰支援)」があります。医療機関が行うもののほか、公的な機関でも実施されています。たとえば静岡市葵区の静岡障害者職業センターでは、うつ病等で休職中の方を対象に、ご本人・事業主・主治医の三者の同意のもとで、おおむね8〜12週間のリワーク支援を行っています(電話 054-652-3322)。利用するかどうかは、主治医と相談しながら検討するとよいでしょう。
お金の不安も、一人で抱えない
休職中の焦りの背景に、収入の不安があることも少なくありません。勤務先の健康保険に加入している方は、業務外の病気で仕事を休み、給与が支払われない場合に「傷病手当金」を受けられることがあります。
協会けんぽの場合、待期3日間のあと4日目以降の休んだ日が対象で、同じ病気について支給開始日から通算して1年6か月まで支給されます。1日あたりの金額は、支給開始日以前12か月の標準報酬月額の平均を日額にした額の、およそ3分の2が目安です。健康保険組合や共済組合など、加入先によって細かな扱いが異なりますので、勤務先や加入先にご確認ください。
体の病気が隠れていないかも確かめる
休職中も続くだるさや眠気、集中しにくさには、心の不調だけでなく、体の病気が関わっていることがあります。甲状腺の働きの乱れや貧血、睡眠時無呼吸などはその一例です。大きないびきや日中の強い眠気がある、体重が大きく変わったといった場合には、内科などでの検査をおすすめすることがあります。
また、休職中に寝酒やお酒の量が増えていると、眠りの質や回復に影響します。気になる方は、遠慮なく診察の際にお話しください。
当院の考え方――薬だけに頼らず、土台から整える
復職が近づくと不安が強まり、その不安を抑えるための薬が少しずつ増えていくことがあります。一時的に必要な場合もありますが、薬で不安を抑えるだけでは、職場で働き続けるための体力やリズムは育ちません。
当院では、可能な限り最小限の処方を基本に、次のような土台づくりを大切にしています。
- 起きる時刻をそろえる ―― 起床時刻を一定にし、朝の光を浴びることが、生活リズムを整える第一歩です(第3号「眠れない夜を、薬だけに頼らず整える」もご覧ください)。
- 日中の活動を少しずつ増やす ―― 散歩から始め、外出や作業の時間を段階的に延ばしていきます。
- 負担の「元」を振り返る ―― 何が負担になっていたのかを言葉にし、戻ったときの働き方を一緒に考えます。
復職はゴールではなく、働きながら回復を続けていくためのスタートです。職場に戻ってからも通院を続け、睡眠や疲れ具合を確認していくことが、再び休むことを防ぐ支えになります。
こんなときは、一度ご相談ください
- 休職中だが、いつ戻ればよいか分からず不安が強い
- 復職の時期が近づくと、眠れない・動悸がするなどの症状が出てくる
- 主治医と職場の意見が合わず、どう進めればよいか迷っている
- 以前に復職したが、短い期間で再び休むことになった
- 休職するほどではないが、出勤するのがつらくなってきている
ほかの医療機関に通院中の方は、まず今の主治医とよくご相談ください。そのうえで、別の視点からの意見も聞いてみたいと感じたときは、どうぞお気軽にお問い合わせください。
おわりに
休職は、立ち止まって、自分の働き方や暮らし方を見直すための大切な時間でもあります。焦る気持ちがあるのは、それだけ仕事や職場を大切に思っている証拠かもしれません。
「早く戻ること」より「戻ってから続けられること」を目標に、睡眠と生活のリズムから一歩ずつ整えていきましょう。
当院は初診・再診とも完全予約制です。ご予約はお電話(054-200-2227、受付 9:00〜17:00)にて承っています。
※本コラムは一般的な情報提供を目的としています。症状については自己判断せず、医療機関にご相談ください。

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