不眠

この記事は約8分で読めます。

「なかなか寝つけない」
「夜中に何度も目が覚める」
「朝早く目が覚めて、その後眠れない」
「眠ったはずなのに、休んだ感じがしない」

このような睡眠の悩みは、珍しいことではありません。
そのため当院では、あえて「不眠症」ではなく**「不眠」**という言葉を用いています。病名がはっきりつく前の段階でも、睡眠の問題で困っている方が相談しやすいように、という考えからです。

一般に不眠とは、眠る機会があるのに、寝つけない、途中で目が覚める、朝早く目が覚める、十分眠った感じがしないといった状態が続き、日中の眠気、だるさ、集中力低下、気分の落ち込み、いらいらなどにつながっている状態を指します。長く続く不眠では、「眠れないこと」そのものが不安になり、さらに眠れなくなる悪循環が起こることもあります。


不眠にはいろいろな形があります

不眠には、いくつかのよくあるパターンがあります。

  • 入眠困難
     布団に入ってもなかなか寝つけない
  • 中途覚醒
     夜中に何度も目が覚める
  • 早朝覚醒
     予定よりかなり早く目が覚めてしまい、その後眠れない
  • 熟眠感の低下
     眠ったはずなのに、眠った感じがしない

これらはひとつだけの場合もあれば、いくつか重なっている場合もあります。たとえば、寝つきも悪く、途中でも目が覚め、朝も早く目が覚めるという方もいます。

また、「7時間眠れないから異常」「8時間眠らないといけない」とは限りません。睡眠時間には個人差があり、年齢によっても変化します。大切なのは、時間の長さだけでなく、日中に困っているかどうかです。


不眠の背景にはさまざまな原因があります

不眠の背景として多いのは、ストレス、不安、気分の落ち込み、生活リズムの乱れ、夜更かし、シフト勤務、カフェイン、ニコチン、飲酒、身体の痛み、頻尿、薬の影響などです。特にアルコールは「寝酒」として使われがちですが、眠りの質を悪くし、夜中や朝方の目覚めを増やすことが知られています。厚生労働省の睡眠指針でも、睡眠薬代わりの寝酒は睡眠を悪くするとされています。

また、「不眠」だと思っていても、背景に睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群、体内時計のずれ、うつ病や不安障害などが隠れていることがあります。いびきが強い、呼吸が止まっていると言われる、脚がむずむずして寝つけない、昼間の眠気が強い、といった場合には、単純な不眠としてだけでなく、別の睡眠障害も考える必要があります。


当院での不眠に対する治療方針

当院では、不眠に対しても、サイト全体の方針と同じく、薬だけに頼りすぎない診療を大切にしています。トップページでは「可能な限り最小限の処方で、薬だけに頼らず、睡眠と生活習慣から整える精神科診療」と掲げており、治療方針ページでも、不要なお薬は処方せず、生活改善や環境調整を優先することが明記しています。

1.まず「なぜ眠れないのか」を丁寧に整理します

不眠の診療で大切なのは、単に「眠れないから睡眠薬を出す」ことではありません。
当院ではまず、

  • 寝つきが悪いのか
  • 途中で目が覚めるのか
  • 朝早く目が覚めるのか
  • 日中にどのような支障があるのか
  • いつから始まったのか
  • 仕事、家庭、対人関係、体調、飲酒、カフェイン、服薬との関係はどうか
    を整理していきます。

不眠は症状であって、その背景は人によって異なるためです。

2.睡眠と生活習慣を見直します

長く続く不眠では、生活習慣や「眠ろうと頑張りすぎること」が、かえって眠りを妨げていることがあります。
当院では、必要に応じて、

  • 起床時刻を大きくずらしすぎない
  • 日中の活動量を確保する
  • 就床時刻にこだわりすぎない
  • カフェインやニコチンを控える
  • 寝酒をやめる
  • 寝床で長く苦しみすぎない
    といった点を一緒に見直します。

厚生労働省の「睡眠ガイド」や「睡眠障害対処12の指針」でも、就床前のカフェインや喫煙を避けること、眠くなってから床に就くこと、就床時刻にこだわりすぎないことなどが勧められています。

3.薬は必要なときに、必要最小限で考えます

不眠が強く、日中の生活に大きな支障が出ている場合には、薬が役立つことがあります。
ただし、当院では最初から薬だけで解決しようとは考えません。一般に、長く続く不眠では認知行動療法的アプローチ(CBT-I)が第一選択とされており、薬物療法は症状や状況に応じて組み合わせて考えるものとされています。当院でも、薬だけに頼るのではなく、睡眠習慣や生活背景の見直しを重視しながら、必要な場合に限って慎重に薬物療法を行います。

4.漢方薬による治療にも対応しています

当院では、睡眠障害に対して漢方薬による治療にも対応しています。初めて受診される方向けページやFAQでも、睡眠障害、不安障害、うつ病、パニック障害などに対して、西洋薬との併用または単独での漢方治療が可能と案内しています。
「できれば強い睡眠薬は避けたい」「体質や症状に合わせて治療を考えたい」という方にも、ご提案できる選択肢があります。

5.必要に応じて、睡眠を客観的に評価します

不眠の中には、「本人はほとんど眠れていないと感じているが、客観的にはある程度眠れている」場合や、その逆のように、主観と客観が一致しないことがあります。
当院では必要に応じて、InSomnograf(インソムノグラフ)という自宅での睡眠計測サービスをご案内しています。これは睡眠時の脳波を測定してAI解析を行い、睡眠状態を評価するものです。日常環境での睡眠を客観的に把握できる点が特徴です。

6.他の睡眠障害が疑われる場合には、必要な医療機関をご案内します

いびきが強い、呼吸が止まっていると言われる、日中の眠気が極端に強い、脚の不快感で眠れない、といった場合には、睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群など、別の睡眠障害が背景にあることがあります。
当院では、対応できること・できないことを明確にし、必要に応じて他院をご案内する方針です。不眠の背景として他の睡眠障害が疑われる場合には、適切な医療機関との連携を考えます。


具体的なケース

以下は、実際の診療でよくみられる経過をもとにした架空の事例です。

ケース1:職場ストレスがきっかけで眠れなくなった方

40代の会社員の方です。仕事の負担が急に増え、夜になると翌日のことが頭から離れず、寝つけなくなりました。眠れない不安から飲酒量も増え、夜中に何度も目が覚めるようになって受診されました。

診察では、職場ストレス、不安、寝酒が不眠を悪化させていると考えられました。そこで、まず休養と生活の立て直しを優先し、飲酒を控えていただきながら経過をみたところ、睡眠は改善しました。当院の治療方針ページでも、職場ストレスによる不眠に対し、薬を使わず休職と環境調整で改善した例が紹介されています。

ケース2:長く睡眠薬を使っていたが、生活調整と薬の見直しで安定した方

50代の女性です。何年も前から睡眠薬を服用していましたが、「薬を飲んでも眠れた感じがしない」「薬がないと眠れない気がする」と不安が強くなっていました。

診察では、就床時刻が早すぎること、昼寝が長いこと、寝床の中で長時間「眠らなければ」と考え続けていることが、かえって不眠を長引かせているようでした。そこで、睡眠の取り方を見直しながら、薬の使い方を慎重に調整し、必要に応じて漢方薬も併用しました。不眠では、睡眠習慣の見直しと、睡眠薬の安全で適切な使い方の両方が大切です。

ケース3:不眠と思っていたが、別の睡眠障害が疑われた方

60代の男性です。夜中に何度も目が覚めることを主訴に受診されました。当初は「不眠」と考えていましたが、詳しく聞くと、いびきが強く、ご家族から呼吸が止まっていると指摘されていました。昼間の眠気も強く、会議中にうとうとしてしまうことがあるとのことでした。

このような場合、単純な不眠だけでなく、睡眠時無呼吸症候群など別の睡眠障害も考える必要があります。当院では必要に応じて他院紹介や客観的な睡眠評価を検討します。不眠はひとつの病名ではなく、背景を見極めることが重要です。


このような方はご相談ください

  • 寝つくまでにかなり時間がかかる
  • 夜中に何度も目が覚める
  • 朝早く目が覚めて、その後眠れない
  • 眠った感じがしない
  • 眠れないせいで、仕事や家事に支障が出ている
  • 不眠が続き、不安や気分の落ち込みも出てきた
  • 睡眠薬を続けているが、このままでよいか不安
  • 寝酒がやめられない
  • 不眠なのか、他の睡眠障害なのか気になる

不眠は、単なる「寝不足」ではなく、日中の集中力低下、気分の不安定さ、作業効率低下、事故リスクの上昇などにもつながります。睡眠の問題が続くときは、早めに相談することに意味があります。


受診にあたって

不眠の診断は、「何時間眠れたか」だけでは決まりません。
大切なのは、

  • どのような不眠か
  • いつから続いているか
  • 日中にどんな支障があるか
  • 不安や抑うつ、飲酒、薬、身体症状との関連はどうか
    を整理することです。

初診では、睡眠のことで困っていることを、うまくまとまっていなくても大丈夫です。
「寝つけない」「夜中に起きる」「朝早く起きる」「翌日つらい」など、今困っていることをそのままお話しください。当院は予約制で、高校生以上の方に対応しており、必要に応じて漢方治療や他院紹介も行っています。


緊急性が高い場合について

何日もほとんど眠れていない状態が続き、強い焦燥、混乱、幻覚のような症状がある場合や、気分の高ぶりが強く現実的な判断が難しい場合、自分を傷つけたい気持ちが強い場合には、通常の不眠の範囲を超えて緊急対応が必要なことがあります。
また、夜間・休日の救急対応が必要な場合には、当院での対応が難しいことがあります。そのような場合は、安全のため救急対応可能な医療機関への相談をご検討ください。


まとめ

不眠は、寝つけない、途中で目が覚める、朝早く目が覚めるといった睡眠の問題によって、日中の生活に支障が出ている状態です。背景にはストレス、不安、生活リズム、飲酒、身体の病気、他の睡眠障害など、さまざまな要因があります。だからこそ、「とりあえず睡眠薬」ではなく、なぜ眠れないのかを丁寧に整理することが大切です。

当院では、薬だけに頼らず、睡眠と生活習慣から整えることを大切にしています。必要に応じて薬物療法、漢方薬、客観的な睡眠評価、他院連携を組み合わせながら、その方に合った治療をご提案します。眠れない悩みを一人で抱え込まず、どうぞご相談ください。