うつ

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「気分が晴れない」
「何をしても楽しくない」
「朝がつらくて起きられない」
「以前のように仕事や家事ができない」

こうした状態が続くと、「これは甘えなのか」「ただ疲れているだけなのか」「病院に行くほどではないのでは」と迷う方が少なくありません。
そのため当院では、あえて「うつ病」ではなく、「うつ」という言葉を入口にしています。診断名がはっきりつく前の段階でも、気分の落ち込みや意欲低下、眠れない、食欲がないといった困りごとがあれば、相談していただいてよいと考えているからです。

一般に、うつ病では、気分の落ち込み興味・喜びの低下に加えて、眠れない、食欲がない、疲れやすい、集中できない、自分を責めてしまうといった症状がみられ、仕事や家事、学業など日常生活に大きな支障が出ることがあります。厚生労働省や国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所(以下NIMH)も、うつは一時的な気分の波とは異なり、睡眠・食事・仕事など日常の機能に影響する状態だと説明しています。


うつでみられる主な症状

うつでは、次のような症状がみられます。

  • 気分が落ち込む
  • 何をしても楽しくない、興味がわかない
  • 疲れやすい、だるい
  • 眠れない、逆に眠りすぎる
  • 食欲がない、または食べすぎる
  • 集中できない、考えがまとまらない
  • 仕事や家事、勉強に手がつかない
  • 自分を責める、価値がないように感じる
  • 将来に希望が持てない
  • 死にたい、消えてしまいたいと感じる

うつは「こころの症状」だけとは限りません。実際には、だるさ、頭痛、吐き気、動悸、肩こり、食欲低下、不眠といった身体の症状が前面に出ることもあります。厚生労働省の情報でも、うつ病では眠れない、だるい、頭が重いなど身体症状が目立つ場合があるとされています。


「うつ病」が疑われるのはどのようなときですか

気分の落ち込みは、誰にでも起こります。つらい出来事のあとに落ち込むこと自体は、自然な反応です。
ただし、気分の落ち込みや興味の低下が1日の大半で続き、それが2週間以上続いて、生活に支障が出ているような場合には、うつ病の可能性を考えます。厚生労働省の一般向け情報でも、抑うつ気分や興味の低下を含む症状が2週間以上続く場合は、専門家への相談が勧められています。

ただし、診断は症状の数だけで機械的に決まるものではありません。
実際には、症状の内容、続いている期間、日常生活への影響、きっかけ、これまでの経過、身体の病気や服薬の影響などを総合して判断します。頭痛、吐き気、動悸などの身体症状は精神的ストレスだけでなく内科的な疾患が原因となる場合があるため、強い身体症状がある場合はまず内科受診を勧めています。


「うつ」に見えても、見分けが大切な状態があります

1.適応障害

仕事、人間関係、家庭の問題など、はっきりしたストレスをきっかけに落ち込みや不安、不眠が出る場合には、適応障害として考えるほうが自然なことがあります。症状だけを見ると、うつ病と区別がつきにくいこともあります。

2.双極性障害(躁うつ病)

うつのように見えても、過去に気分が高ぶる、眠らなくても平気、活動的になりすぎる、出費が増える、いつもより自信に満ちるといった時期があれば、双極性障害の可能性も考える必要があります。国立精神・神経医療研究センター(以下NCNP)も、うつ病と双極性障害では治療が異なるため、見分けが重要だと説明しています。

3.身体の病気や薬の影響

甲状腺機能の異常などの身体疾患や、一部の内科治療薬などで、うつ状態のように見えることがあります。NCNPも、身体の病気や内科治療薬が原因でうつ状態が生じることがあるとしています。

そのため当院では、「落ち込んでいるからすぐにうつ病」と決めるのではなく、本当にうつ病として治療するのがよいのかを丁寧に見極めることを大切にしています。


当院での「うつ」に対する治療方針

1.まず、今の状態を丁寧に整理します

当院では、まず

  • どんな症状が出ているのか
  • いつから悪くなったのか
  • きっかけはあるのか
  • 睡眠、食事、飲酒はどうか
  • 仕事や家庭でどの程度困っているのか
  • うつ病、適応障害、双極性障害、身体疾患の影響のどの診断が妥当か
    を整理します。

NICEや公的機関でも、うつの診療では症状の重さだけでなく、経過、機能障害、併存症、リスク評価を含めた総合的な評価が重要とされています。

2.薬だけに頼らず、休養・睡眠・生活習慣・環境調整を重視します

当院では、もともと「薬に頼りすぎない精神科診療」「不要なお薬は処方しない」「生活改善や環境調整を優先する」という治療方針です。うつの治療でも、この姿勢は同じです。気分の落ち込みそのものだけでなく、睡眠不足、過度なストレス、働き方、家庭での負担、飲酒習慣などを見直すことが、回復の土台になることがあります。

また当院では、治療開始時に断酒をお願いしています。FAQや治療方針ページでも、飲酒は睡眠の質を下げ、うつ症状や不安症状の改善を遅らせることがあるため、治療効果を高める目的で飲酒制限を案内しています。

3.診察の中で、考え方や過ごし方を一緒に整理します

うつでは、「自分が悪い」「頑張りが足りない」「休んではいけない」といった考えが強くなりやすく、回復を妨げることがあります。治療では、そうした状態を整理し、いま何を減らすべきか、何を優先すべきか、どう休むかを一緒に考えることが大切です。英国国立医療技術評価機構(以下NICE)でも、うつの治療には心理的介入や話し合いの治療が重要な位置づけを持つとされています。

ただし、当院には臨床心理士・公認心理師は在籍しておらず、臨床心理士によるカウンセリングは行っていません。必要に応じて、カウンセリング機関や他院をご案内する方針です。

4.薬は必要なときに、必要最小限で使います

うつの症状が強く、睡眠や食事、日中の生活に大きな支障が出ている場合には、抗うつ薬などの薬物療法が有効なことがあります。一方で、当院では最初から薬だけで解決しようとは考えません。NICEや英国国民保健サービス(以下NHS)でも、うつの治療は症状の重さや本人の希望に応じて、セルフヘルプ、心理的治療、薬物療法などを組み合わせて考えるとされています。

抗うつ薬は、飲んですぐに気分が晴れる薬ではありません。NHSでは、抗うつ薬は通常1~2週間で変化が出始め、十分な効果が出るまで最大8週間程度かかることがあると案内しています。また、やめるときは自己判断で急に中止せず、段階的に減らすことが推奨されています。

5.必要に応じて漢方薬も選択肢になります

当院ではうつ病、不安障害、睡眠障害、パニック障害などに対して、漢方薬による治療にも対応しています。強い薬をなるべく避けたい方、体質や身体症状も含めて治療を考えたい方には、症状に応じて漢方薬も選択肢になります。

6.回復後は、再発予防まで考えます

うつは、一度よくなっても、無理な復職や生活負荷の再開で再び悪化することがあります。当院の治療方針でも、「症状を一時的に抑えるだけでなく、根本的な回復と再発予防を目指す」としています。そのため当院では、症状が軽くなった後も、睡眠、生活リズム、働き方、無理をしやすい場面などを確認しながら、再発予防を含めて診療します。


具体的なケース

以下は、実際の診療でよくみられる経過をもとにした架空の事例です。

ケース1:眠れない、食べられない、出勤できない状態が続いた方

40代の会社員の方です。数か月前から仕事の負担が増え、次第に眠れなくなり、食欲が落ち、朝になると体が動かず出勤できない日が増えてきました。「自分が弱いだけだ」と思って我慢していましたが、何をしても楽しくなく、涙が出るようになって受診されました。

診察では、抑うつ気分、意欲低下、不眠、食欲低下が続き、仕事に大きな支障が出ていました。一方で、過去の経過や症状から双極性障害を強く疑う所見は乏しく、うつ状態として治療を開始しました。休養と生活の立て直しを優先し、必要最小限の薬物療法を組み合わせながら、回復後は復職の時期を慎重に調整しました。うつでは、単に気分の問題として片づけず、睡眠や食事、生活機能まで含めてみることが重要です。

ケース2:身体の不調ばかりが気になっていた方

30代の方です。だるさ、頭痛、動悸、胃の不快感が続き、最初は内科を受診されました。大きな身体の異常はなく、「ストレスかもしれない」と言われたものの、ご本人は気分の落ち込みよりも身体症状のつらさを強く感じていました。

詳しく伺うと、以前より笑えない、集中できない、眠れない、自分を責める気持ちが強いといった変化がありました。うつでは身体症状が前面に出ることがあるため、その点を含めて診療を進め、睡眠や生活習慣の見直し、必要な治療につなげました。御院の初診案内でも、身体症状が強い場合はまず内科的な評価を行い、そのうえで精神科的な要因を考える流れが示されています。

ケース3:「うつ」だと思っていたが、診断の見直しが必要だった方

50代の方です。落ち込みや不眠のため「うつだと思う」と受診されました。しかし診察を進めると、過去に「ほとんど寝なくても元気だった」「次々アイデアが浮かんで活動的になった」「いつもより出費が多かった」といった時期があったことがわかりました。

このような場合、うつ病ではなく双極性障害の可能性を考える必要があります。うつ病と双極性障害では治療方針が異なるため、当院では目の前の落ち込みだけで決めつけず、これまでの経過を丁寧に確認します。低い気分だけをみてすぐに治療を始めるのではなく、見立てを誤らないことも大切な治療の一部です。


このようなときはご相談ください

  • 気分の落ち込みが続いている
  • 何をしても楽しくない
  • 眠れない、食べられない
  • 朝になると動けない
  • 仕事や家事、勉強に手がつかない
  • 理由もなく涙が出る
  • 自分を責めてしまう
  • 「いないほうがいい」「消えてしまいたい」と感じる
  • うつなのか、適応障害なのか、双極性障害なのかわからない

厚生労働省やNHSでも、うつは徐々に進むことが多く、自分では「ただ疲れているだけ」と思っていても、周囲から見て初めて異変がわかる場合があるとされています。つらさを我慢しすぎず、早めに相談することに意味があります。


受診にあたって

御院は完全予約制で、高校生以上を対象としています。また、強い身体症状がある場合は、まず内科やかかりつけ医での評価が勧められています。他院からの転院希望の方は、まずセカンドオピニオン外来での相談が案内されています。

初診では、「うまく説明できない」「どこから話せばよいかわからない」という状態でも大丈夫です。
「眠れない」「食欲がない」「仕事に行けない」「涙が出る」など、いま困っていることをそのままお話しください。当院では、診断名を急いで決めることよりも、まず今の状態を整理し、対応できること・できないことを正直にお伝えすることを大切にしています。


緊急性が高い場合について

自殺念慮が強い、自傷行為がある、現実的な判断が難しい、夜間や休日に緊急対応が必要といった場合には、当院での対応が難しいことがあります。御院のFAQと治療方針ページでも、そのような場合は安全のため、救急対応可能な医療機関の利用が案内されています。


まとめ

「うつ」は、単なる気分の落ち込みではなく、気分、意欲、睡眠、食欲、集中力などの変化によって日常生活に支障が出ている状態です。ただし、その背景には、うつ病だけでなく、適応障害、双極性障害、身体の病気、薬の影響などが含まれることがあります。だからこそ、まずは丁寧に見立てることが大切です。

当院では、薬だけに頼りすぎず、睡眠、生活習慣、環境調整も含めて治療を考えます。必要な場合には薬物療法や漢方薬も取り入れながら、その方に合った回復を目指します。つらさを一人で抱え込まず、どうぞご相談ください。